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配偶者居住権とは何のためにあるのか法的効果を解説

2024年03月01日
税務

配偶者居住権とは、被相続人の配偶者が、被相続人名義の住宅に引き続き住み続けることができる権利のことです。

令和2年4月から施行された新しい権利で、夫や妻名義の持ち家に住んでいる人のために制定されました。

平均寿命の長期化による、ライフスタイルの変化を考慮した改正となります。

配偶者居住権は何のための制度?

夫婦で暮らす自宅が、夫婦のどちらか一方の名義であるケースは少なくありません。

夫や妻名義の持ち家に住んでいる場合、夫や妻が亡くなると、その持ち家は相続の対象になります。

この場合、遺言がなければ、持ち家や他の財産を誰が相続するのか、相続人全員の話し合いによって決めていきます。

この話し合いのことを、遺産分割といいます。

それでは、相続人が、被相続人の妻と子であり、遺産分割の対象になる財産が以下の内容である場合、妻と子は、どのように財産を分けるべきでしょうか。

【例】

・遺産:被相続人夫婦の住宅(5,000万円)、現金(5,000万円)

・相続人:妻、子(法定相続分は各2分の1)

この例では、法定相続分にしたがって遺産分割をする場合、それぞれ5,000万円ずつ財産を相続する権利があります。

もし、このとおりに遺産分割をすることにした場合、自宅は妻がそのまま取得し、現金を子が相続する方向で話し合いが進むものと考えられます。

しかしそうすると、妻が現金をまったく相続できないため、その後の生活に困ってしまう場合があります。

特に平均寿命の長期化で、夫や妻に先立たれた方が、その後10年・20年といった長期間にわたって生活しなければならないことは珍しくありません。

そこで、超高齢化社会における相続では、遺された配偶者が遺産分割によって生活できなくなる事態を避けるため、「配偶者居住権」を創設したのです。

配偶者居住権でできること

配偶者居住権とは、住宅全体の所有権から、その住宅に住むことができる「居住権」のみを切り離して分けた権利です。

配偶者居住権には、以下の特徴があります。

独立した権利として相続できる

配偶者居住権は、独立した権利として、被相続人の配偶者のみが相続できる権利です。

独立した権利とすることのメリットは、住宅全体の所有権よりも低い価値の財産として遺産分割ができる点にあります。

たとえば、5,000万円の住宅の配偶者居住権が3,500万円になると仮定した場合、先ほどの例では、次のような遺産分割が可能になります。

・住宅:5,000万円(配偶者居住権は3,500万円)

・現金:5,000万円

配偶者→配偶者居住権3,500万円、現金1,500万円

子→住宅の所有権1,500万円、現金3,500万円

この例のように、遺産の大部分が住宅である相続で揉めたとき、配偶者居住権を設定することが解決方法の一つになります。

存続期間は終身で設定できる

配偶者居住権は、遺された配偶者が亡くなるまで存続させることができます。

逆に「10年間」のように期限付きで設定することも可能です。

存続期間は、配偶者居住権の価額に影響します。

登記をすることで第三者に対抗できる

配偶者居住権は、登記をすることで第三者に対抗することもできます。

相続税の節税になる場合がある

配偶者居住権が一定の条件下で消滅した場合、その権利者(配偶者)の相続(二次相続)まで考えたときに、相続税の節税になる場合があります。

つまり、遺産分割で特に揉めているわけではない“円満な相続”であっても、配偶者居住権を設定したほうが得をするケースがあるということです。

(注)

・配偶者居住権も遺産の一部として、一次相続の相続税の課税対象に含まれます。(配偶者の税額軽減によって、遺された配偶者に税負担が生じることはほとんどありません。)

・節税になるかどうかは、配偶者居住権の消滅事由によります。

・逆に増税となるケースもあるため、かならず税理士に相談してください。

配偶者居住権を設定する方法

配偶者居住権を設定するには、下記の2つの方法があります。

・遺産分割によって設定する

・遺言によって設定する

遺産分割で揉める可能性があれば、生前のうちに遺言で準備しておくとよいでしょう。

配偶者居住権は専門家に相談を

配偶者居住権は、遺された配偶者のその後の暮らしを守るための権利です。

もし、次の3つを満たす場合は、生前のうちに対策しておきましょう。

・夫婦のどちらか一方が住宅の名義人である

・財産の大部分がその住宅である

・遺産分割で揉めそうである

また、上記のとおり、配偶者居住権を設定することによって相続税を節税できるケースもあります。

よって「遺産分割で揉めそうである」に該当しない円満な相続でも、設定したほうが良い場合もあります。

ただし、設定したことによって逆に税負担が増えてしまうケースもありますので、慎重に検討しなければなりません。

配偶者居住権にご興味のある方は、相続専門の税理士にご相談ください。