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自宅を残したい!限定承認について

2022年06月01日
法務税務

相続の限定承認は、借金など負債の多い相続でも、自宅など特定の財産を手元に残したい場合の対応策になります。

限定承認とは

相続とは、被相続人(亡くなった方)の財産に属するすべての権利義務を承継することをいいます。

不動産やお金といったプラスの財産だけでなく、ローンの残りや借入金などマイナスの財産も承継しなければなりません。

これらの権利義務のすべてを相続人が承継することを、「単純承認」といいます。

これに対し、プラスの財産の範囲内に限定してマイナスの財産を承継することを、「限定承認」といいます。 相続によって相続人が過大な債務を負ってしまうリスクから、相続人を守るための制度です。

限定承認のメリット

相続する負債を限定できる

単純承認であれば、マイナスの財産にかかる返済義務を無限に負ってしまいますから、相続した財産で返済しきれないときは、私財で返済しなければならなくなります。 これに対し、限定承認をすれば、この返済義務を、プラスの財産を限度とする有限責任とすることができます。

プラスの財産を取得できる

限定承認では、被相続人(亡くなった方)のプラスの財産はすべて承継し、原則的には、この財産からマイナスの財産を清算します。

マイナスの財産が思ったよりも少なく、マイナスの財産の返済後にプラスになった分は、もちろん相続人の財産として使うことができます。

特定の財産を残せる可能性もある

プラスの財産よりもマイナスの財産が多いときの有名な対応方法として、「相続放棄」があります。

相続放棄とは、相続人としての権利をすべて放棄し、最初から相続人ではなかったことになる手続きですので、プラスの財産もマイナスの財産もすべて失うことになります。

相続人でなくなるのですから、限定承認のように債権者への弁済手続きは必要ありませんが、前項のような恩恵はありません。

また、「この財産だけは相続したい」というニーズがある場合、限定承認を選ぶことで、その財産を失わずに済む可能性があります。

限定承認の手続きの流れ

相続人全員の意思で家庭裁判所に申述する

限定承認をするには、家庭裁判所(被相続人の最後の住所地の家庭裁判所)に、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に、限定承認の申述をする必要があります。

限定承認の申述は、相続放棄のように個別の相続人の判断ではすることができず、必ず相続人全員の意思で行う必要があります。

個々の相続人ごとに債務の範囲がバラバラになると、手続きが煩雑になってしまうからです。

相続放棄をした人がいれば、その人を除く相続人で、限定承認の手続きをします。

なお、申述には、申述書、財産目録、相続関係がわかる戸籍謄本などの準備が必要で、費用もかかります。

特に必要書類は、前もってよく確認しておきましょう。

裁判所:相続の限定承認の申述

【単純承認とみなされないよう注意】

限定承認の申述期間となる3か月を一般的に熟慮期間といいますが、この期間に限定承認や相続放棄をしなければ、原則的には単純承認したとみなされます。

財産調査が難航して判断できないときは、3か月以内に申立てをすることで、期限を伸長できますので、時間がかかりそうなときは早めに手を打ちましょう。

また、他にも下記の行為で、単純承認をしたとみなされることがあります。

・相続財産の全部若しくは一部を隠匿する

・相続財産を私的に消費する

・わざと相続財産を財産目録に記載しなかった

家庭裁判所による限定承認の受理

家庭裁判所で、申述を受理するかどうか審判が行われます。 受理されると、「限定承認受理通知書」が送付されます。

限定承認の公告・催告

限定承認が受理されてから5日以内(相続財産管理人の場合は10日以内)に、債権者に向けて公告(官報掲載)をします。

わかりやすく言うと、「私たちは限定承認をしましたので、債権者は期限内に名乗り出て、債権の請求をしてください」というアナウンスです。

このとき、記載内容、掲載期間などに決まりがありますので、専門家や裁判所にご相談ください。

また、すでに判明している債権者には、個別に催告をしなければなりません。

マイナスの財産の弁済

公告の期間内に申出のあった債権者やすでに判明している債権者に対し、それぞれの債権額の割合や優先権に応じて、相続財産から弁済します。

家を残したいときの限定承認

「先祖代々受け継いできた土地や家を相続したい。でもマイナスの財産の方が多いから、単純承認は不安だ」というケースでは、限定承認をすることで、家を残せる可能性があります。

まず、限定承認において債務の弁済をする場合、相続財産は競売にかけられます。(民法第932条)

しかし、これには「家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従い相続財産の全部又は一部の価額を弁済して、その競売を止めることができる」という但し書が付けられています。

これは、相続財産のうち、相続人にとって欲しい財産があるのなら、鑑定評価額に相当するお金を支払うことで、競売を止めることができる権利があるということです。

「家が欲しい」という場合、相続人が金銭を用意して、この権利(先買権と呼ばれています)を行使することで、家を残すことができます。