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養子縁組による相続税対策とその留意点

2022年12月01日
税務

養子相続税対策の一つに、養子縁組があります。

養子縁組とは

養子縁組とは、親子関係のない者との間に、法律上の親子関係を生じさせる手続きをいいます。

普通養子縁組と特別養子縁組

養子縁組には「普通養子縁組」と「特別養子縁組」の2種類があります。

両者の違いは、実親との親子関係です。

「普通養子縁組」は実親との親子関係が存続するため、養子は、実親と養親の両方に対して法律上の親子関係を持っている状態になります。

相続税対策として用いられるのは、一般的にはこの「普通養子縁組」です。

これに対し、「特別養子縁組」は、実親と暮らせない15歳未満の子どもの親となる制度になります。

子どものための特別な制度であり、成立すれば、実親との親子関係はなくなります。

養子縁組が相続税対策になる理由

養子縁組によって養子となった者は、養親の法定相続人となります。

そうすると、養親の相続時に、以下のような相続税の節税効果を得ることができます。

基礎控除額の増額

相続税の計算対象になるのは、遺産の正味の合計額から「基礎控除額」を差し引いた残額です。

基礎控除額は「3,000万円+法定相続の数×600万円」で計算されます。

たとえば、法定相続人が実子1名のみであるAさんが、生前に、養子縁組によって養子を1名迎え入れた場合、Aさんの相続における基礎控除額は3,600万円から4,200万円になります。 つまり、養子縁組をする前よりも+600万円の相続財産を、非課税でお子さんらに相続させることができるようになるのです。

死亡保険金の非課税額も増額

養親が保険料を負担している生命保険から支払われる死亡保険金も、「みなし相続財産」として相続税の対象になります。

しかし、相続人が受け取る死亡保険金のうち「法定相続人の数×500万円」までは相続税の計算対象になりません。

そのため、養子縁組によって養子を1名迎え入れた場合、基礎控除額の600万円に加えて+500万円の保険金を非課税でお子さんらに渡すことができるようになります。

分散効果による相続税率の抑制

相続税の税率は、金額の高い部分ほど高い税率が適用される「超過累進税率」のしくみが採用されています。

【相続税の速算表】

法定相続分に応ずる取得金額税率控除額
1,000万円以下10%
3,000万円以下15%50万円
5,000万円以下20%200万円
1億円以下30%700万円
2億円以下40%1,700万円
3億円以下45%2,700万円
6億円以下50%4,200万円
6億円超55%7,200万円

上記の速算表にあるように、相続税は「法定相続分に応じる取得金額」ごとに計算します。

たとえば、基礎控除額を差し引いた後の相続財産が1億円の場合、法定相続人が実子1人であれば、その税額は2,300万円になります。

  【計算式】

   1億円×30%-700万円=2,300万円

しかし、養子縁組によって養子を1名迎え入れた場合、1億円に対する税額は1,600万円になります。

  【計算式】

   実子の法定相続分:1億円×2分の1×20%-200万円=800万円①

   養子の法定相続分:1億円×2分の1×20%-200万円=800万円②

   相続税の総額:①+②=1,600万円       

このように法定相続人が2人以上いる場合、相続税率は、法定相続分ごとに分けた財産額に乗じます。

養子縁組によって法定相続人が増えた場合、税率を乗じる財産額が分散されることから、超過累進税率のしくみによって財産に適用される税率が下がり、税額も大きく下げることができるのです。

なお、税率による差がわかりやすいよう1億円で比較しましたが、養子縁組によって基礎控除額や死亡保険金の非課税額が変わるため、実際の税額の差はもっと開きます。

孫養子による一代とばしの効果も

孫を養子にすることで、財産の相続を一代飛ばすことができます。

孫は本来、祖父母の相続人ではありません。

そのため、祖父母の財産が孫に渡るのは、祖父母の相続、父母の相続と、少なくとも2回の相続税を支払った後になります。

当然、相続税を支払った分だけ、孫が取得できる財産が目減りしてしまいます。

そこで、孫を養子縁組によって祖父母の養子にすれば、孫は祖父母の相続人として1回の相続税の負担で遺産を受け取ることができます。

養子縁組を相続税対策とするときの留意点

法定相続人に加えられる養子には人数制限がある

民法上、養子縁組の人数に制限はありません。

しかし、税金逃れのために養子縁組をする人が出てこないよう、税法上では、基礎控除額や生命保険金における法定相続人の人数、相続税を計算する際の法定相続分の計算において、法定相続分をカウントできる養子の人数を、下記のとおり制限しています。

 法定相続人に含める養子の人数
被相続人に実子がいる場合1人
被相続人に実子がいない場合2人

※特別養子縁組によって養子となった人や、被相続人の配偶者の実の子(例:配偶者の連れ子など)で被相続人の養子となっている人などは実子とみなされます。人数制限はありません。

孫養子の2割加算

各人が負担する相続税は、相続税の総額から計算されます。

相続税の総額とは、「分散効果による相続税率の抑制」の項で計算した2,300万円や1,600万円にあたる金額のことです。

この金額を、相続人や受遺者(遺言によって財産を取得した人)が、それぞれ取得した財産の割合に応じて負担します。

ところが、被相続人の一親等の血族や配偶者にあたらない人は、自身に割り当てられた相続税が2割加算される(=1.2倍になる)というルールがあります。

2割加算のルールは、孫養子にも適用されます。(代襲相続人となる場合を除きます)

そのため、孫養子による相続税対策をするときは、2割加算によって増える税額と孫養子によって節税できる金額をシミュレーションしておきましょう。

なお、2割加算後の税額には、控除を適用できる場合があります。

たとえば、財産を取得した孫養子が未成年者の場合、18歳になるまでの年数に10万円を乗じた額を控除することができます。(未成年者控除)